僕の大好きな建築家・建築史家・建築探偵の藤森照信氏の著書。
お会いしたことはないけれど、著書からにじみ出る街角の建築に対する愛情に共感するばかり。
東京に生まれ、東京で育った私には、とてつもないスピードで変わっていく故郷の東京にと、そこで暮らしてきた人々の息遣いが感じられ、懐かしさと、子供時代を思い出させてくれる素敵な一冊です。
1日目から26日目迄、日曜を除いた1か月間の東京の、古き良き建築物を巡る旅の提案がなされています。
1986年から1992年まで季刊誌に連載されたもので、既に取り壊されてしまった建物も多いが、自分の子供の頃にはまだあったのだろうと思うと、多少の口惜しさも感じずにはいられない。
嬉しかったのは、鳥居坂にあったフィリピン大使館についての記述があったこと。
鳥居坂にあった旧フィリピン大使館は、小学生の頃、お化け屋敷として有名だった。鎖で鍵をかけられた鉄の扉の先に見える、焼けただれ廃墟と化した洋館は、異形であるが畏敬の念を抱かせる不思議な存在だった。
そんな当時の思い出を懐かしみ、新しい知識を与えてくれるのが、藤森照信氏の本です。
この本もそのひとつ。
当時の洋館やお屋敷は、現代ではマンションに建て替えられていることが多く、マンション仲介に携わる者としては、残念な気持ちになることも多いが、知っておきたい知識を得ることもできます。